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「ナルニア国物語」について 第15回3.「朝びらき丸東の海へ」(2)牧師 藤掛順一
エドマンドたちが乗り込んでから「朝びらき丸」が最初に到着したところは「離れ島諸島」でした。ここはもともとナルニアの領土で、エドマンドとルーシィは昔ナルニアの王、女王だった頃、ここを訪れたことがありました。この島で彼らは、ミラースによって追放されていた七人の貴族の一人、ベルン卿と出会うことができました。そのいきさつはそれこそ手に汗握る冒険の物語なのですが、それについてはご自分でお読みいただいた方がよいでしょう。一つだけ述べておくと、カスピアンとエドマンド、ルーシィ、ユースチス、そしてリーピチープが奴隷商人に捕えられて売られそうになってしまったのです。その苦境から彼らを救ったのがベルン卿でした。カスピアンはベルンを離れ島諸島の新しい総督に任命し、奴隷売買を一切禁止しました。 離れ島諸島から先は、誰も知らない未知の海です。ベルンの話では、彼の六人の仲間たちはその東の海に船出したきり、消息不明になっているのです。朝びらき丸は準備を整え、東の海へと出帆しました。最初の何日かは快適な航海でしたが、その後、大嵐が起こり、十数日に亘って続きました。マストは折れ、飲み水の樽もいくつかこわれてしまいました。ようやく嵐はおさまりましたが、次の陸地が見つかるまで、水を極力節約していかなければなりません。そんな中でのユースチスの日記はあいかわらずのわがまま、一人よがり、自分勝手な思いで満ちています。その一部を引用してみると、「九月四日 いまだ、なぎ。食事のわりあてがとても少なく、とくにぼくはだれよりも少ない。カスピアンは、もりかたがずるくて、ぼくがわからないと思っている。どういうわけだか、ルーシィは、じぶんの分をぼくにわけて、きげんをとろうとしたが、あのじゃまばかりするやかましやのエドマンドが、そうさせなかった。まったくあつい日でりだ。夜じゅうのどがひどくかわく」。そしてこのユースチスが夜、水を盗んで飲もうとしてリーピチープに見付かり、大騒ぎになったりします。そのような苦しい航海の末、ようやく陸地が見え、ある島に到着しました。 この島でのことは少し詳しく述べなければなりません。ユースチスは、朝びらき丸の修理や整備の仕事にこき使われるのがいやで、こっそりと島の山の中へ入って昼寝をしようと思いました。ところが、霧に閉ざされたせいもあって、帰りの道を間違え、ある谷間に出ました。そこで彼は、竜を見たのです。竜の姿はこのように描写されています。「鉛のような色をした長い鼻づら、にぶい赤い眼、鳥の羽根も獣の毛皮もまとわぬ、くねくねと地面にわだかまる長いからだ、クモのように背よりも高く肘をつき立てた足、するどいかぎ爪、石にこすれてぎしぎしいうコウモリのようなつばさ、長い長い尾」。ユースチスは恐ろしさに震え上がりましたが、その竜は年をとっていて、もうほとんど動けませんでした。そして、彼の目の前で、死んでしまったのです。竜が死んだことがわかってほっとしたところに、激しい雨が降ってきました。ユースチスは竜の洞穴に入って雨宿りをしました。そこで彼は、金貨や指輪、腕輪、宝石などの宝物を見つけました。「ユースチスは、ふつうの子どもとちがって、宝物を大したものだとは思いませんでしたが、わが家のルーシィの寝室にかかっていた絵のなかに、あんなふうにばかばかしくもよろめきこんでやって来たこの新しい世界では使えるものだと、すぐにさとりました。『この国では、これに税金がかからないし、政府に宝物を渡さなくてもいいしなあ。こんなものをすこし使えば、ここではけっこう楽にくらせるぞ|カロールメンの国なら、申し分ないや。このあたりでは、そこが、どうもいちばんまともなところらしいからな(この国のことについては、第五巻に出てきます)。けど、どのくらいもっていけるだろう。この腕輪なら−ここにはめこんであるのは、きっとダイヤだな−ぼくの手首にはいるぞ。大きすぎるけど、肘の上にはめれば、大じょうぶだ。それからポケットにはダイヤをいっぱいいれてこう。金より楽だもの。それにしても、このいまいましい雨は、いつあがるかな?』」このように考えながら、ユースチスは眠ってしまいました。 目が覚めてみると、左腕の肘の上にはめた腕輪がいやにきつくしまって痛んでいました。どうしたのだろうと体を動かしてみると、月の光に照らされた竜の足の影が動きました。彼は、もう一匹竜がいたんだと思って恐ろしさのあまり洞穴から走り出て、谷にある池の方へ走っていきました。「けれども、ユースチスが池のほとりにつくと同時に、二つのことがおこりました。その一つは、じぶんが手足全部をつかって走ってきたということが、雷のようにはげしく思い浮かびました。いったいどうして、そんなことをしたんだろう?その二つめは、水の上にからだをかがめた時、ほんのしばらく、もう一つの竜が、池の中からじぶんを見つめているのだと思ったことでした。けれども、たちまちに、ユースチスは、ほんとうのことをさとりました。池の竜の顔は、じぶんの水かがみだったのです。もはや、うたがいはありません。じぶんが動くと、そちらも動きます。口をあけてとじると、やっぱり口をあけてとじるのです。ユースチスは、眠っているあいだに、竜になってしまったのでした。竜の宝ぐらで、竜の欲ぶかい心をいだいて眠って、じぶんが竜になったのです。」さあ、ユースチスはどうなるのでしょうか。 |
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