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「ナルニア国物語」について 第21回4.「銀のいす」(1)牧師 藤掛順一
第四巻「銀のいす」に入ります。この巻に登場する人間世界の子供は、前巻に出てきたユースチスと、その友人の女の子ジルです。彼らは男女共学の学校に通っていました。ルイスは男女共学が嫌いなようで、ずいぶん批判的にこの学校を描いています。ある日ジルはいわゆる「いじめ」にあって体育館の裏で泣いていました。そこにユースチスが通りかかります。ユースチスは、先学期までは、「いじめ」をする連中のお先棒をかつぐような少年でしたが、休みの間に(それがあの「朝びらき丸」の出来事が起った休みでした)すっかり変わったのです。ユースチスは、自分を変えた「別の世界」のことをジルに話し、こんな嫌な学校から抜け出して二人でそこに行ければよいのに、と語り合います。魔法によってしかそこへ行くことは出来ないと聞いたジルは「それじゃ、地面に丸を書いて、そん中にへんてこな字を書いてさ、その中に立って、おまじないをとなえる、っての?」と言います。「それがね、」とユースチスは、しばらく熱心に考えたあとで、「じつは、ぼくもそんなようなことを考えていた。もっとも、やったことはないけどね。けれども、いざこの時になってみると、あんな丸を書くだのなんだのいうのは、いんちきだという気がしてきた。あのひとは、そんなことをすかないだろうと思うよ。それではまるで、こっちの思いどおりに、あのひとにいろんなことをさせることができると考えてるみたいだ。ところがじっさいは、あのひとに、ただおねがいすることができるだけなんだ」
それで二人がアスランの名を呼び、二人をナルニアへ連れて行ってくれるようにお願いを始めたとたん、いじめっ子たちがジルを捜しに来た声がしました。二人はあわてて逃げ出し、学校の裏の石塀の、いつもは鍵がかかっているドアに手をかけてみました。するとドアは開き、二人は外に出ることができました。ところが、そこには二人が想像していたのとは全く違う景色が広がっていました。ドアのこちら側はどんよりとした秋空だったのに、向こうには太陽がさんさんと輝いていたのです。ドアを閉めたとたん、いじめっ子たちの声はぷつりと途切れ、二人は「別の世界」にいたのです。 ユースチスとジルは手をつないで森の中を歩いて行きました。すると突然ユースチスが「気をつけろ」と叫んでジルを後ろに引き戻しました。二人はいつのまにか、高い高い崖の縁にいたのです。ジルは、負けん気の強い性格で、しかも高い所が平気な質でした。ユースチスに、自分はこわくないことを見せびらかすために、彼女はわざと崖の縁に立って下を見下ろしました。しかしその崖はジルが想像していたよりも何十倍も高いものでした。彼女は立ちすくみ、動けなくなってしまいました。ユースチスが彼女を引き戻そうとしてもみあっているうちに、ユースチスは崖から落ちてしまったのです。 その途端、大きなライオンが現れ、崖の縁から落ちていったユースチス目掛けて息を吐きかけました。落ちていったユースチスが浮かび上がり、遠くへ飛んでいくのが見えました。するとライオンはジルには目もくれず、森の中へ帰っていきました。そのライオンは勿論アスランですが、ジルはアスランを知りません。恐ろしい所に来てしまい、恐ろしいことをしでかしてしまったことを思い、彼女は泣きました。泣きやんで、喉がかわいたジルは、森の中の小川へ水を飲みに行きました。するとそこには、あのライオンがすわっていたのです。ライオンはジルに、「のどがかわいているなら、のめばよい」と言いました。ジルはおそるおそる、「あの、約束してくださいますか-わたしになにかしないって。そこへいっても。」と尋ねました。ライオンは「約束はしない」。「あなたは女の子を、たべますか?」とジル。「女の子でも男の子でも、おとなの男でも女でも、王や皇帝も、町や都も王国も、わたしはすべてのみつくした」。ジルがやっとの思いで水を飲むと、「人間の子よ」とライオンがいいました。「男の子は、どこだ?」「がけからおちました」とジルはいって、「ライオンさま。」とつけ加えました。「あの子は、どうしてそうなったのか?人間の子よ。」「わたしがおちるのを、とめようとしてのでございます。ライオンさま。」「なぜそのように、がけのはしにいったのか?人間の子よ。」「みせびらかしたのでございます。」「それは、しごくよい答えだ。もう二度とそういうことをするな。ところで-」(と、ここではじめてライオンの顔は、すこしばかりほころびました。)「その子は、だいじょうぶだぞ。わたしが、ぶじにナルニアに吹きおろしておいた。だが、あんたの仕事は、あんたのしわざのせいで、ずっとむずかしくなるな。」「ぜひ教えてください、どんな仕事でしょう?ライオンさま。」「その仕事のために、わたしが、あんたとあの子を、あんたがたの世界からよびよせたのだ。」これを聞いてジルは、ライオンが人違いをしていると思いました。「じつはわたし、変だと思うんです。つまり、なにかまちがっていらっしゃるんじゃないかと、思うんです。それは、だれも、わたしとスクラブ(ユースチスの名字)をよんだ者がおりませんので。ここにきたいと思ったのは、わたしたちなんです。スクラブが、わたしたち、ええと、だれかに-わたしの知らないひとの名まえでしたが-よびかけよう。きっとその、だれかさんが、ここにこさせてくれるだろう、といったのです。それでわたしたちがそのひとによびかけて、あのドアがあいたのを知ったのです。」「わたしがあんたがたによびかけておったのでなかったら、あんたがたがわたしによびかけることはなかっただろう。」「それでは、あなたが、だれかさんなんですか?ライオンさま。」「わたしだ。」 こうしてジルはアスランと出会いました。アスランの方から呼びかけていなければ、人間がアスランに呼びかけることはない、それは私たちと神様との関係を表しています。神様が先に私たちを選び、召して下さっているから、私たちは神様を呼び求める気持を与えられるのです。私たちの信仰は、神の選びの恵みに支えられているのです。 |
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