富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第29回

5.「馬と少年」(1)

 牧師 藤掛順一


 第五巻「馬と少年」に入ります。このお話は、他の巻とは毛色が変っていて、人間の世界から誰かが魔法の力でナルニアへ行って冒険をする、というのではなく、ナルニアの世界の中での一つのエピソードとして語られています。時代は、ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィが王であった、ナルニアの黄金時代のことです。
 ナルニアのはるか南方にあるカロールメン国にシャスタという少年が住んでいました。このカロールメン国は、明らかに、ヨーロッパから見た「トルコ」のイメージで描かれています。人々の肌の色は浅黒く、頭にターバンをかぶり、奴隷制度を持ち、武力で他国を侵略することを常に考え、タシという鳥の姿の偶像の神を信じ、絶対君主に支配されている国です。
 シャスタは貧しい漁師の家の子でしたが、ある日彼らの家に、カロールメンの大貴族(タルカーンと呼ばれる)の一人が立派な馬に乗ってやって来て、一夜の宿を借りたいと言いました。そういう客のある時は、シャスタは馬小屋へ追いやられてそこで寝るのでした。その晩シャスタは、父とその貴族の話を立ち聞きしてしまいます。貴族はシャスタを自分の奴隷に売るように父に申し出たのです。父が「たった一人のわが子を奴隷に売れとは、いったいどのくらいの値をつけようと言われるのか」と欲深そうに聞くと、貴族は「うそっぱちを申すな。この少年がおまえのむすこではないことは明らかだ。よいか。おまえの頬は、わしと同じように黒っぱいが、あの少年は白く美しく、まさに、北のはてにすむ、あのいまわしいが、美しい野蛮人のものだ」と言いました。それを聞いた父は、ある晩海岸に流れついた舟の中で泣いている赤ん坊のシャスタを見つけて育ててきたことを白状しました。
 シャスタはこれを聞いてある解放感を覚えました。父は自分をこき使うだけで愛してくれたことはなかったのです。自分はあの父の子ではないということは彼にとってむしろ喜ばしいことでした。そして、あの貴族に売られた方が今よりもよい暮らしができるかもしれないとも思いました。でも、あの貴族がどんな人なのか、全く知りません。あの人の奴隷になったらどうなるのでしょうか。シャスタは馬小屋に戻り、貴族の乗ってきた馬に向かって「おまえに口がきけたらなあ。おい」と話しかけました。すると馬は「口はきけますよ」と答えたのです。その馬はナルニアのもの言う馬で、名前をブレーといい、小馬の頃にさらわれてカロールメンに連れてこられ、普通の馬のふりをしながら、いつか故郷に帰ることを夢見ていたのです。ブレーはシャスタに、あの貴族は残酷な人だから、あの人の奴隷になるくらいなら死んだ方がましだ、今すぐ自分と一緒に逃げようと提案します。ブレーもシャスタが自分と同じ北の国の生まれであると気づいているのです。そして彼としても、馬だけで逃げるよりも、人間が一緒の方がつかまりにくいから好都合なのです。
 彼らはその晩のうちに出発しました。北の方、ナルニアに向けて、自由に向けての彼らの逃走が始まったのです。シャスタはそれまで馬に乗ったことはありませんでした。何度も落馬しながら、ブレーに教えてもらい、次第に乗り方を覚えていきました。ブレーはカロールメンの貴族のもとで、何度も戦場に出たり、レースに出たりした優れた軍馬だったのです。
 何週間か人目を避けつつ旅をした彼らは、ある日、もの言う牝馬のフィンと、彼女に乗ってやはりナルニアへ逃げようとしているアラビスというカロールメンの少女と出会いました。彼らが出会ったきっかけは、共にライオンに追われ、逃げているうちに一緒になり、フィンが言葉をしゃべったのをブレーが聞いて話しかけたことでした。アラビスは、カロールメンの名門貴族の娘でしたが、継母によって、カロールメンの次期総理大臣と目されているアホーシタ・タルカーンと結婚させられようとしていました。アホーシタはへつらいと悪だくみによってカロールメンの王ティスロックに取り入り、地位を得た、もう六十歳を過ぎた醜い男でした。この男に嫁がされることに絶望したアラビスが自殺しようとした時、彼女の馬であったフィンが話しかけてそれを止めたのです。フィンもそれまで自分がもの言う馬であることを隠していたのでした。フィンは自由の国ナルニアのことをアラビスに語り、一緒にナルニアヘ逃げることになったのです。こうして、二頭の馬と二人の少年少女は共にナルニアに向かって逃げていくことになりました。でも、名門貴族の娘であるアラビスと、何の教育も受けていないシャスタとの間は、なかなかうまが合いませんでした。
 いよいよ、カロールメンの都タシバーンが近づいてきました。ナルニアへ行くには、この都を通りぬけ、その北側に広がる砂漠を越えていかなければならないのです。子供たちはぼろをまとい、馬たちも泥だらけになって、お百姓か奴隷の子供たちが荷馬を引いているように見せ掛けようとしました。そのような姿で彼らはタシバーンの都に入っていきました。タシバーンでは、貴族や偉い人が通るときは、一般の人はわきへよけて道を開けなければなりません。彼らが歩いていくと、丁度、ティスロック王の客として訪れていたナルニアの貴族たちの一行が通りかかりました。シャスタは人ごみに押されて、一番前でその一行を見ることになってしまいました。その時、とんでもないことが起ったのです。
 
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