富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第56回

7.「さいごの戦い」(9)

 牧師 藤掛順一


 エメースはうまやへ入っていきました。数秒後、カロールメンのよろいをつけた男が倒れ出てきて息絶えました。隊長リシダはその男を見て驚きのさまを見せましたが、それをおし隠して、「むてっぽうな少年は、自分の意志を果した。少年は、タシを見て、死んだ。警戒せよ、みなの者」と言いました。ナルニア人たちは震え上がりました.。しかしうまやの陰から見ていたチリアンたちには、死んだ男がエメースとは別人であることがわかりました。
 ヨコシマは、「次にうまやに入る者は誰だ」と言い、反対する者を一人ずつ無理やりにうまやに入れようとしました。いよいよ打って出る時であると判断したチリアンはうまやの陰から踊り出て、ナルニア人たちに、我々のもとに来て共に戦えと呼びかけました。そして、ぼんやりしていたヨコシマをつかまえると、うまやの中にほうり込みました。うまやの戸が閉まったとたん、目をくらます緑がかった青い光がうまやのなかからぴかりと流れでて、大地がふるえ、ふしぎな声がおこりました。ひと声なき叫んだギャッというすごい音は、なにかとほうもなく大きな鳥のしわがれた声のようでした。動物たちは、うめくやら鳴くやら、「タシランだ!あれからかくまってください!」と叫ぶやらして、ばったりたおれる者もあり、つばさや前足で顔をかくす者のあるありさまです。生きもののうちでもっとも目のきく、ワシの遠見ぬしを別として、その時のリシダ・タルカーンの顔に気のついた者はありませんでした。遠見ぬしの見たところからすれば、たしかにリシダは、ほかの者たちと同じようにおどろきもし、おののきもしたのが、ワシにはわかりました。「たしかにこれは」と遠見ぬしは考えました。「あいつがじぶんでは信じていなかった神々をよびだしてしまったのだ。ほんとうにきてしまったからには、あの男にはどうなるだろう?」
 ナルニア人たちの中のある者たちは、チリアンのもとにかけつけました。しかし「タシラン」を恐れて呼びかけに応えない者たちもいました。リシダはカロールメン軍の隊列を整えると、攻撃を命じました。「できるだけ、生けどりにして、うまやへ放りこめ。あるいは、あそこへおいこむようにしろ。そしてうまやに全部をいれてしまったら、あそこに火をつけて、タシ大神に対するいけにえとしよう。」「ははあ!」と遠見ぬしはひとりごとをいいました。「なるほど、そうして、いままで信じなかったおゆるしをタシにとりむすぶつもりだな。」
 こうして、「さいごの戦い」が始まりました。戦いの中で、ユースチスが、ジルが、カロールメン兵士に捕えられてうまやに投げ入れられました。気がつくと、チリアンは、うまやの前へ追いつめられ、リシダ・タルカーンと戦っていました。うまやの戸口はカロールメン兵士によって開かれており、チリアンをそこに入れてすぐに戸を閉めようと待ち構えていました。チリアンは剣を捨てるとリシダを抱きすくめ、いっしょにうまやにとびこみました。「さあ、こい。みずからタシに出会うがよいわ。」耳をつんざく泣き声がおこりました。毛ザルがなげこまれた時のように、地面がふるえて、目をくらます光がほとばしりました。外にいたカロールメン兵たちは、「タシだ!タシだ!」と絶叫して、戸をばたんとしめました。もしタシがじぶんたちの隊長をほしがったのなら、隊長といえどもやらないわけにいきません。とにかく兵士たちは、タシに会いたくなかったのです。
 暗くて狭いうまやの中に入ったはずなのに、あたりは明るく広い場所でした。リシダは恐怖のあまり両手で顔をおおい、倒れ伏しました。おそろしいすがたが、ふたりの方へむかってきました。それは一同が塔のそばでながめたあのすがたよりは、ずっと小さいものでしたが、それでも人間よりはずっと大きくて、あれと同じものなのでした。ハゲタカのくびと四本の手がありました。そのくちばしは、かっとひらき、眼はもえていました。そのくちばしから、しわがれ声がもれました。「リシダ・タルカーン、そちがわしをナルニアへよんだ。ゆえに、まいった。いうことがあるか?」そう言うと、タシは恐怖におののくリシダを抱え込みました。信じてもいない神を利用した彼はこうして、自分が利用した神(悪魔)の餌食となったのです。
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