旅人がわたった愛本橋には、かなしい伝説がある

 むかし、黒部川をわたるためには、ふたつの方法があった。ある旅人は、海のちかくで「四十八ケ瀬」とよばれるほどにわかれたあさい川をわたった。またある旅人は、扇状地のかなめの愛本にかかっていた橋をわたった。この橋は「はね橋」といって、全国でもめずらしい形の橋だった。
 


下道中絵巻から黒部川の部分(江戸時代)
 


山口県の錦帯橋、山梨県の猿橋とともに日本三奇橋の一つだった愛本の「はね橋」
 この愛本にはかなしい伝説がつたわっている。
 橋のちかくの徳左衛門という茶屋に、親孝行のお光という娘がいた。ある晩、戸をたたくものがあったが、だれもいない。そんなことが三晩つづいた朝、お光の姿がみえなくなった。
 三年目の夜、そのお光がおみやげにチマキを持って帰ってきた。お光は「ぬるま湯をおけに入れて納屋へはこんでください。赤ちゃんをうみます。どうか中をみないで。」といって納屋に入った。しかし、老いた母は戸のすきまから中をのぞいた。なんとおけの中を大蛇の赤ちゃんがおよいでいるではないか。お光は「かなしいおわかれです。」と涙ながらにいうと、大蛇になって愛本橋の水の底へ消えていった。
 この伝説は今も受けつがれ、毎年6月21日には、大蛇行列が行われている。




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