徳大寺有恒

RSのポテンシャルをさぐる
私はスカイライン2000RSをはじめて走らせたときの胸の高鳴りを今も持ち続けている。その日、私はドシャブリの中を富士スピードウェイに行き、15分、3回、合計45分のテストドライブをした。
あまりの雨でコースは水びたし、少しでも強いパワーをかけるとテールがズルリとすべる状態で、むしろ怖さの方が先に立った。
しかし、その日、夜になってから再び私はRSのドライバーズシートに座った。谷田部に向かうためである。さすがの雨もやみ、まだ路面はところどころ濡れている状態であったが、RSのポテンシャルを引きだせるコンディションにあった。
4500回転あたりから一段と高鳴る金属音を楽しみたくて、セカンド、サードを多用しながらの道行きであったが、このクルマが十分にドライバーの気持ちを高揚させ、なおかつドライバーの積極的な行動に応えうるものであることを感じとっていた。
確実に7000回転まで使える・・・
スカイライン2000RSのマキシマムスピードは194.33q/h、これは2リットル級スポーツセダンとしてはトップクラスのものといっていい。ヨーロッパの高速車のひとつの目安が120マイル/時(すなわち192q/h)。スカイラインはこの120マイルカーである。
120マイル/時という点ではスカイライン2000ターボGTもほぼ同じなのであるが、実際にドライブしてみると同じ120マイルでも、そのフィールはまったく異なる。
ターボはこのスピードとしては驚くほど静かに、かつスムーズにクルーズする。それは静かに、あたかも湖をすべるごとくなのだが、RSは相当なメカニカルノイズの侵入を許し、荒々しく駆ける。この音をノイズと思うかノートと感じるか、ここがターボとRSを選ぶ分かれめとなる。ちなみに私はノート派のほうだ。
194.33q/hを記録したのはトップギアで5900回転、フォースギアでは6900回転まで回り、私はこちらのほうが少し速いかとも思った。しかし、フォース6900回転時のスピードは188.48q/hだった。
実力は15秒台のフィーリング・・・
テストは0〜400mを計測し、そのまま周回に入るというものであった。
やや踏み応えのあるクラッチを踏み、ギアをローに入れる。
RSから私が感じたほとんど唯一にして、最大のウィークポイントは、このシフトレバーの位置なのである。
ともかく遠い、ローからセカンド、セカンドからサードあたりまでは苦痛なほど遠い。それにニューカーであることもあってかフィールもよくない。
0〜400mのベストが16.06秒というのは、ひとつは前日からの雨でコースがまだ濡れていたことと、このシフトレバーの遠さもわずかながら関係していると思う。私がこのエンジンから感じた実力は0〜400m15秒台のものなのだ。
それともうひとつローギアとセカンドギアが少し離れていることも0〜400mには影響しているかもしれない。
セカンド以上の各ギアのつながりは申し分なく、7000回転でシフトアップすると、セカンドギア100q/h、サードギア150q/hに達する。
特にサードギアののびはこれこそ4ヴァルブユニットと快哉を叫びたくなるほどのもので、5000回転あたりから6500回転あたりまで、スムーズで力強い加速が得られる。
このクルマの日本の高速道路でのクルージングギアは、このサードではなかろうか。
アグレッシブに攻めるクルマ・・・
このFJ20に与えられた仕事は少なくとも4000回転以上であるはずだが、実は低速域のフレキシビリティも立派なものなのだ。少なくとも2000回転以上にレヴカウンターの針があれば、そこからかなりの強い加速が得られる。
このことは各ギアの中間加速のデータにハッキリ表れている。もし、制限速度100q/hの日本の高速道路をトップギアで走るとしたら、この低速の強さを利用することになる(トップギア100q/hのエンジン回転は約3000回転である)。シーケンシャルインジェクションの大きなメリットのひとつだろう。
FJ20は現在の日本では最もスポーティなホットマシンであることは間違いない。レヴカウンターのリミットは9000回転で、4ヴァルブユニットのポテンシャルを考えれば、これはあながちコケオドシとは思えないのだ。
このクルマはゆったりとした気分で乗るにはふさわしくなく、ストレートで、コーナーで、アグレッシブにハイスピードを求める男のクルマである。
4ヴァルブユニットの4500回転あたりから転調するごとくカン高く、澄んだ音を楽しみ、適切なシフトワークにより(それにはシフトレバーは改良の要あり)、いつもレヴカウンターを4000回転以上に居座らせることを躊躇しない男。
そして、ステレオソニックに耳をかたむけるより、エンジンオイルの香りに血をさわがせる男にこそふさわしいクルマだ。
RSに改良を加えるなら
RSのような公道上を走るためのスポーツカーで、しかもパワーアシスト付きのスティアリングを持つクルマなら、ストレートアームがいい。
昔から、スポーツカーのコックピットの表現に「スティアリングから手を離すと自然にシフトレバー・・・」という一文がある。こういうことには人一倍神経を使う桜井氏のクルマとしてはどうも納得いかないのだ。
シートは現在のものでも大きな不満はない。生産車はサイドサポートと、乗り降りのバランスを充分に考えて現在の型状となったのであろう。
しかし、もし私がこのクルマに乗るとしたならば、もう少々サポートのよいバケットタイプのシートに、ドライバー側だけでも交換したいものだ。
トランスポーテーションとしてRSを考えると、いろいろな部分のうち50%は失格かもしれない。でも、残りの50%から得る喜びはこのクルマよりバランスのとれたクルマから得られる100%の何倍ものものなのだ、と思えるスポーツマンに勧めたい一台である。


星野一義    黒沢元治    徳大寺有恒